教育現場へのAI導入の影響は―学生・教師の双方の立場から―

AI(人工知能)と聞くと、ヒト型ロボットやずっと未来のことをイメージするかもしれませんが、実際は私たちの日常生活に既に入り込んでいます。製造、データ分析、販売、科学など、さまざまな業界がAIを取り込むことで急速に変化を遂げている中、教育現場も例外ではありません。最近のAIの技術革新は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴うオンライン学習への移行によって加速的に進み、学生と指導者の双方の立場から教育業界にも変革を及ぼしています。どのような変化が起きているのか、見てみましょう。

 

教師にとってのAI導入のメリット

教育現場に立つ教師にとって、AI導入のメリットの一つは、採点のようなルーティンタスクの自動化です。今のところ一般的なAIの利用は、選択式のテストや小テストの採点に限られていますが、記述式の問題や作文問題もAIで採点できるプログラムも存在しています。Gradescopeのようなプログラムは大学の指導者が、明確に採点方法が定まっている課題の採点・評価を行う際に利用されています。このようなAIシステムは、柔軟性という点ではまだまだ課題がありますが、常に改善が図られています。

 

AI技術は採点に使えるだけではありません。チャットボット(chatbot)のように、簡単な質問であれば答えを見つけてくれるAIのプログラムを利用することも可能です。AIプログラムを直接的な学生のサポートに利用することで、教師が授業計画など他の優先業務に取り組む時間を作り出すのです。

 

その他にも、AI技術を活用して、カリキュラムと学生のニーズとの間のギャップを特定することもできます。例えば、テストや成績を管理するのにAIを使えば、多くの学生が間違えた部分を特定できるので、教師は問題点をより簡単に把握することができるのです。教師はその問題点について調べ、学生が考え方を理解していないのか、あるいは教え方を調整する必要があるのかなどを判断することができます。Courseraのようなオンライン学習プラットフォームは、既にこのようなAI技術を実装しており、素晴らしい結果を出しています。

 

生徒にとってのAI導入のメリット

前述したように、AIチャットボットは生徒にとってもお役立ちツールです。教師とは違い、AIプログラムであれば24時間年中無休 

時間年中無休で利用可能なので、生徒は教師の都合を気にすることなく自由に勉強することができるのです。その他にも、AIプログラムが個々の生徒の学習評価を示すことで、生徒が既に理解していることと、まだ勉強が必要であることを把握することができます。この結果、生徒は必要な知識を学ぶことに注力できるので、時間を有効活用できます。

 

AI教師(AIチューター)も開発されており、教室での指導に取り入れるところが増えてきています。例えば、韓国のKyowon グループは、生徒のサポートを行うのに、実際の教師に似た家庭教師を開発しています。生徒ごとにカスタマイズされた授業を行うAIツールの人気も高まっています。AIを使えば、さまざまな学習スタイルに適応し多様な取り組みに利用可能なインタラクティブなモジュールを作成することができます。こうしたAIの機能を活用することが、生徒が新しい資料を自力で理解する助けとなるのです。

 

教室にAIを導入することの最大のメリットのひとつは、教育の機会が広がることです。生徒は、特定の時間や場所(距離)、対面であるかないかに関わらずに授業を受けることができるようになるのです。オンライン学習が普及したおかげで、学習者は、場所を選ばずオンラインコースを受講したり、教育機関の提供するネット上の情報へアクセスできるようになりました。

 

AIは、短時間での採点と評価、自動翻訳、サービスへのアクセス、さらにそのほかのさまざまな機能を提供することで、学習者のニーズに対するギャップを埋めるのに役立っているのです。

 

教室体験をアップグレードするAIプログラム

教育現場におけるAI技術の爆発的な普及の欠点は、特定のニーズを抱える生徒にうまく対応するツールを見つけるのが難しいということです。広く知られていませんが、障害のある人や授業で使用される言語を母国語としない受講者がプレゼンテーションやテキストを理解できるようにするサポートや、学術論文の編集をサポートするAIツールも存在しています。以下に、教師や学習者に人気のある革新的なツールをリストアップしましたので参考にしてみてください。

 

Presentation Translatorは、PowerPointのスライドに字幕を入れることでリアルタイムにプレゼンテーションを翻訳することができるツールです。このマイクロソフトが提供する革新的なツールは、話者の発言を瞬時に60以上の言語に翻訳することが可能です。多言語対応に加え、聴覚障害者への情報提供にも活用できます。

 

CTI (Content Technologies Inc.) のは、AIを使って教科書を読み、関連する情報を引き出し、学習者のために のために要約やクイズを作成することで、有用な学習ガイドに変貌させることができます。実際、ネットで検索してみると、人気のある教科書の多くは既にこのツールによって学習ガイドが作成され、ダウンロードできるようになっています。

 

Trinkaは、英語論文・テクニカルライティングの校正用に開発された、 AI搭載の英文校正ツールです。文法やスペルだけでなく、専門用語が正しく使われているか、書式や引用が正確か、さらには文調や文体の提案までしてくれます。基本的なスペルチェックや文法チェッカーは多数ありますが、Trinkaは基本的な英文校正だけでなく、プロの編集者や校正者のような文章を生成します。

 

Duolingoは、革新的な言語学習プログラムとして知られています。誰でも簡単にダウンロードできる言語教育アプリで、さまざまなレベルの言語学習者が語彙を増やすことができるように設計されたコースが開設されています。DuolingoもAIを利用して学習者の理解力を把握しているので、どこでも外国語のブラッシュアップを簡単に行うことができるのです。

 

ユネスコのような世界的な組織が教育の場でのAIツールの採用を支援しているように、教え方や学び方は日々発展し、進化し続けています。AIを授業や学習体験に取り入れてみてはいかがでしょうか。