接頭辞「Inter-」と「Intra-」の違い

接頭辞「Inter-」と「Intra-」

 

「Inter-」は複数の場所やグループの「間」にあるものを指すときに使われます。

 

“I will be traveling intrastate for a few days.”

(これから数日間、州内を旅行する)

 

と告げた相手に

 

”Did you mean interstate?”

(州間って言いたかったの?)

 

と訊き返される、などということは珍しくありません。「inter-」と「intra-」は綴りも発音も似ており、入れ替えても単語として成立することが多いため、ネイティブでも混同してしまうことの多い接頭辞なのです。ここでは、両者の違い、使い方について見ていきます。

「inter-」とは

 

「inter-」は、複数の場所やグループの「間」にあるものを指すときに使われます。例えば

Students from all over the district came to our school to participate in the interschool competition.

(学校対抗の競技大会に参加するために、地区全域の生徒たちが私たちの学校に来た。)

ここでの「interschool competition」は、異なる学校(school)の間で(inter-)行われる競技(competition)を意味します。

 

「intra-」とは

 

「intra-」は同じグループや場所の「内側」で起こっていることを示すのに使われます。例文

 

My classmates and I won against sixth grade in the intraschool competition.

(私とクラスメートたちは、校内競技で6年生に勝った。)

 

同じ学校内(intrashcool)の学年間で競技が行われたという意味です。

 

正確さが求められる学術ライティングやテクニカル・ライティングにおいては、「inter-」と「intra-」という接頭辞が変わるだけで意味が全く変わってしまいます。
例文

 

① We conducted a study on the how COVID-19 impacted the international movement of researchers in Japan.
(我々は、新型コロナウイルスが日本の研究者の海外渡航(国を跨いだ移動)にどのような影響を与えたかについての調査を行った。)

 

② We conducted a study on the how COVID-19 impacted the intranational movement of researchers in Japan.
(我々は、新型コロナウイルスが日本の研究者の国内での移動にどのような影響を与えたかについての調査を行った。)

 

一度しっかり覚えておけば、この2つの意味について、もう悩むことはなくなるでしょう。

シングルクォーテーション(‘’/一重引用符)とダブルクォーテーション(“”/二重引用符)の使い分け

英語は世界共通語ですが地域によって少しずつ差があります。特に句読点や記号の用法などは微妙に異なるため、非英語圏の人には少しややこしいかもしれません。シングルクォーテーションとダブルクォーテーションのルールはその典型的な例です。アメリカ英語もイギリス英語も両方を使いますが、その使い方は異なります。この記事では、それぞれがどのように使われるかを解説します。

 

シングルクォーテーション(‘’/一重引用符)とダブルクォーテーション(“”/二重引用符)の違い


皆さんも、文章や言葉の引用、単語や重要事項の強調、タイトルの表示などにシングルクォーテーションやダブルクォーテーションが使われているのを目にしたことがあるでしょう。このクォーテーションマーク、実はどこの国でも同じルールに則って使われているわけではありません。アメリカ英語とイギリス英語では、表記ルールが異なるのです。例えば、アメリカ英語ではシングルクォーテーションの使用は非常に少なく、ニュースの見出しと、引用の中の引用という二つの例外を除いてほとんど使われません。引用中の引用とは、以下のような例です。


「ボブは私に『君の家族の集まりにはいかないよ』と言ったの。」

アメリカ英語では単純な引用、強調、皮肉、専門用語、タイトルを示す際にシングルクォーテーションは使用しません。シングルクォーテーションは、上の例のように、引用の中に引用を表す日本語の二重鍵括弧に相当する使い方や、ニュースの見出しの中での引用の場合にのみ使用します。ニュースの見出しの中でのシングルクォーテーションの使用はイギリス英語でも同様です。

一方、イギリス英語ではシングルクォーテーションが好まれ、ダブルクォーテーションは引用の中の引用を示すためにのみ使用されます。上の例文は、イギリス英語では次のような表記になります。

「ボブは私に『君の家族の集まりにはいかないよ』と言ったの。」

これは、イギリス英語とアメリカ英語のクォーテーションマークの使い方の違いの一例にすぎません。その他の用法を見てみましょう。

イギリス英語とアメリカ英語における違い

繰り返しますが、アメリカ英語ではシングルクォーテーションを使うことはほとんどなく、イギリス英語ではダブルクォーテーションを使うことはほとんどありません。下の表で例文を見てください。

タイプ

アメリカ英語

イギリス英語

引用

Shakespeare said, “All the world’s a stage.”

Shakespeare said, ‘All the world’s a stage’.

引用内引用

He said, “Steve Irwin’s famous catch phrase was ‘Crikey!’”

He said, ‘Steve Irwin’s famous catch phrase was “Crikey!”’

題名(テレビ番組、論文など)

Have you seen that episode of Friends, “The One With The Rumor”?

Have you seen that episode of Friends, ‘The One With The Rumor’?

見出しの中の引用(ニュース)

Bush says ‘Mission Accomplished’

Bush says ‘Mission Accomplished’


アメリカ英語とイギリス英語のクォーテーションの使い方のもう一つの違いは、句読点をどこに置くかということです。通常、アメリカ英語では句読点は引用符の中に入りますが、イギリス英語では句読点は引用符の外側に置かれます。ただしアメリカ英語でもコロンとセミコロンは例外です。また、アメリカ英語では疑問符や感嘆符は、それが引用の一部である場合にのみ引用符の内側に入ります。

句読点・感嘆符・疑問符

アメリカ英語

イギリス英語

ピリオド

“All of the containers in the port exploded.”

‘All of the containers in the port exploded’.

カンマ

“I just don’t think we can afford it this year,” sighed the president.

‘I just don’t think we can afford it this year’, sighed the president.

感嘆符

I can’t believe you’ve never heard “practice makes perfect”!

I can’t believe you’ve never heard ‘practice makes perfect’!

引用内の感嘆符

“Please stop singing!” he yelled to his mother.

‘Please stop singing!’ he yelled to his mother.

疑問符

Have you ever heard the saying “the perfect is not the enemy of the good”?

Have you ever heard the saying ‘the perfect is not the enemy of the good’?

引用尾内の疑問符

“Where are you going?” she asked.

‘Where are you going?’ she asked.

セミコロン/コロン

It is true that my boss said “buy whatever you want”; however, I don’t think she meant a Ferrari.

It is true that my boss said ‘buy whatever you want’; however, I don’t think she meant a Ferrari.


クォーテーションマークのその他の用例

クォーテーションマークの使い方は他にもいくつかあります。一つ目は、次の例のように学術論文などで専門的な用語に使う場合です。

The new law defined “public diplomacy” as “the promotion of diplomatic relations by sharing our country’s culture, history, traditions, art, values, and policies through direct communication with foreign nationals.”

(新法では、「パブリック・ディプロマシー」を「外国との直接的なコミュニケーションを通じて、我が国の文化、歴史、伝統、芸術、価値観、政策などを共有し、外交関係を培うこと」と定義しています。)

上記はアメリカ英語の表記で、イギリス英語でも同じように、ダブルクォーテーションの部分をシングルクォーテーションにします。こうしたクォーテーションの使用は書き手が判断します。

また、クォーテーションマークは皮肉を表す場合にも使用されます。例えば

Women finally “achieved equality” after winning the right to vote in 1976.
(1976年に選挙権を獲得し、女性はついに“平等を達成した”。)

このクォーテーションマークは、書き手が「平等が達成された」と本当は考えていないことを表しています。

強調するために引用符が使われているのを見たことがあるかもしれません。しかしそうした引用符の使用は多くのネイティブスピーカーには強調でなく、皮肉として受け止められます。例えば

We “care” about our community!
(私たちは地域社会のことを "気にかけて"いる。)

上の例文は、「コミュニティのことは気にかけていない」と読み手解釈される可能性が高いです。こうした理由で、単語を強調する際は引用符ではなく下線や斜体、太字などが適宜使用されます。

クォーテーションを正しく使うには

研究者や学生の方でも、クォーテーション・マークを正しく使うためにできることがあります。まずは、自分がアメリカ英語で書いているのかイギリス英語で書いているのかを意識することです。投稿先に何らかのルールがあればそれを確認しておきましょう。

もうひとつは、オンラインのAI英文チェッカーのような便利なツールを活用することです。これは、どんな種類の文章を書く場合においても、その文法や句読点・記号などが正しいかを確認するのに役に立ちます。技術職や研究者、学生の皆さんは、学術論文やテクニカル・ライティングの専門用語や文法、句読点などのチェックに特化したTrinka(トリンカ)をぜひ一度お試しください。

シングルクォーテーションとダブルクォーテーションの使い方についての今回の記事は、お役に立ちましたか?

教育現場へのAI導入の影響は―学生・教師の双方の立場から―

AI(人工知能)と聞くと、ヒト型ロボットやずっと未来のことをイメージするかもしれませんが、実際は私たちの日常生活に既に入り込んでいます。製造、データ分析、販売、科学など、さまざまな業界がAIを取り込むことで急速に変化を遂げている中、教育現場も例外ではありません。最近のAIの技術革新は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴うオンライン学習への移行によって加速的に進み、学生と指導者の双方の立場から教育業界にも変革を及ぼしています。どのような変化が起きているのか、見てみましょう。

 

教師にとってのAI導入のメリット

教育現場に立つ教師にとって、AI導入のメリットの一つは、採点のようなルーティンタスクの自動化です。今のところ一般的なAIの利用は、選択式のテストや小テストの採点に限られていますが、記述式の問題や作文問題もAIで採点できるプログラムも存在しています。Gradescopeのようなプログラムは大学の指導者が、明確に採点方法が定まっている課題の採点・評価を行う際に利用されています。このようなAIシステムは、柔軟性という点ではまだまだ課題がありますが、常に改善が図られています。

 

AI技術は採点に使えるだけではありません。チャットボット(chatbot)のように、簡単な質問であれば答えを見つけてくれるAIのプログラムを利用することも可能です。AIプログラムを直接的な学生のサポートに利用することで、教師が授業計画など他の優先業務に取り組む時間を作り出すのです。

 

その他にも、AI技術を活用して、カリキュラムと学生のニーズとの間のギャップを特定することもできます。例えば、テストや成績を管理するのにAIを使えば、多くの学生が間違えた部分を特定できるので、教師は問題点をより簡単に把握することができるのです。教師はその問題点について調べ、学生が考え方を理解していないのか、あるいは教え方を調整する必要があるのかなどを判断することができます。Courseraのようなオンライン学習プラットフォームは、既にこのようなAI技術を実装しており、素晴らしい結果を出しています。

 

生徒にとってのAI導入のメリット

前述したように、AIチャットボットは生徒にとってもお役立ちツールです。教師とは違い、AIプログラムであれば24時間年中無休 

時間年中無休で利用可能なので、生徒は教師の都合を気にすることなく自由に勉強することができるのです。その他にも、AIプログラムが個々の生徒の学習評価を示すことで、生徒が既に理解していることと、まだ勉強が必要であることを把握することができます。この結果、生徒は必要な知識を学ぶことに注力できるので、時間を有効活用できます。

 

AI教師(AIチューター)も開発されており、教室での指導に取り入れるところが増えてきています。例えば、韓国のKyowon グループは、生徒のサポートを行うのに、実際の教師に似た家庭教師を開発しています。生徒ごとにカスタマイズされた授業を行うAIツールの人気も高まっています。AIを使えば、さまざまな学習スタイルに適応し多様な取り組みに利用可能なインタラクティブなモジュールを作成することができます。こうしたAIの機能を活用することが、生徒が新しい資料を自力で理解する助けとなるのです。

 

教室にAIを導入することの最大のメリットのひとつは、教育の機会が広がることです。生徒は、特定の時間や場所(距離)、対面であるかないかに関わらずに授業を受けることができるようになるのです。オンライン学習が普及したおかげで、学習者は、場所を選ばずオンラインコースを受講したり、教育機関の提供するネット上の情報へアクセスできるようになりました。

 

AIは、短時間での採点と評価、自動翻訳、サービスへのアクセス、さらにそのほかのさまざまな機能を提供することで、学習者のニーズに対するギャップを埋めるのに役立っているのです。

 

教室体験をアップグレードするAIプログラム

教育現場におけるAI技術の爆発的な普及の欠点は、特定のニーズを抱える生徒にうまく対応するツールを見つけるのが難しいということです。広く知られていませんが、障害のある人や授業で使用される言語を母国語としない受講者がプレゼンテーションやテキストを理解できるようにするサポートや、学術論文の編集をサポートするAIツールも存在しています。以下に、教師や学習者に人気のある革新的なツールをリストアップしましたので参考にしてみてください。

 

Presentation Translatorは、PowerPointのスライドに字幕を入れることでリアルタイムにプレゼンテーションを翻訳することができるツールです。このマイクロソフトが提供する革新的なツールは、話者の発言を瞬時に60以上の言語に翻訳することが可能です。多言語対応に加え、聴覚障害者への情報提供にも活用できます。

 

CTI (Content Technologies Inc.) のは、AIを使って教科書を読み、関連する情報を引き出し、学習者のために のために要約やクイズを作成することで、有用な学習ガイドに変貌させることができます。実際、ネットで検索してみると、人気のある教科書の多くは既にこのツールによって学習ガイドが作成され、ダウンロードできるようになっています。

 

Trinkaは、英語論文・テクニカルライティングの校正用に開発された、 AI搭載の英文校正ツールです。文法やスペルだけでなく、専門用語が正しく使われているか、書式や引用が正確か、さらには文調や文体の提案までしてくれます。基本的なスペルチェックや文法チェッカーは多数ありますが、Trinkaは基本的な英文校正だけでなく、プロの編集者や校正者のような文章を生成します。

 

Duolingoは、革新的な言語学習プログラムとして知られています。誰でも簡単にダウンロードできる言語教育アプリで、さまざまなレベルの言語学習者が語彙を増やすことができるように設計されたコースが開設されています。DuolingoもAIを利用して学習者の理解力を把握しているので、どこでも外国語のブラッシュアップを簡単に行うことができるのです。

 

ユネスコのような世界的な組織が教育の場でのAIツールの採用を支援しているように、教え方や学び方は日々発展し、進化し続けています。AIを授業や学習体験に取り入れてみてはいかがでしょうか。

 

 

 

AIが出版業界にもたらす恩恵とは?

テクノロジーの発展はビジネスのあらゆる分野に影響をもたらしますが、出版業界も例外ではありません。テクノロジーによって人々の働き方や仕事への取り組み方が変わる中、出版業やその他のマスメディアも急速な変貌を遂げつつあります。スマートデバイスが普及し、日常生活の多くのことがオンラインで行われるようになりました。紙媒体のジャーナリズムは、オンライン・ジャーナリズムに取って代わられ、かつてほど利用されなくなってきています。電子書籍リーダーとインターネットへの接続があれば、世界中のどこからでも図書館一つ分の蔵書全てにアクセスできるような環境の変化がコンテンツ制作やマーケティングのトレンドにも影響を与えています。こうした流れの中にAIも入り込んできています。AIは出版業界にどのような変化をもたらしたのでしょうか。そしてその変化の先には何があるのでしょうか。

 

出版社によるAIの活用

「AI」と「出版」という二つの単語が並べて書かれていると、ロボットが本を執筆する様子を想像する人も多いのではないでしょうか。出版におけるAIの存在は、他の分野と同様に、業界関係者の間で賛否両論を巻き起こしています。自分たちの仕事の将来を危惧する人がいる一方で、AIが自分たちの仕事を楽にする可能性を受け入れる人もいるのです。では、実際に出版社ではAIはどのように活用されているのでしょうか?

 

出版におけるAIの役割を理解するには、出版のプロセスを理解することが重要です。書籍の出版とは、単に、「書いて」、「編集して」、「出す」、というような単純なものではありません。著者や編集者に加え、マーケティング担当者、市場・データアナリスト、リサーチャー、ファクトチェッカー、営業担当者、知的財産権弁護士など、出版には幅広い人材が関わります。AIは、これらすべての業務において、効率化に役立っています。出版業界におけるAIの導入は急速かつ広範囲に及んでいます。英国出版協会(Publishers Association)によると、イギリスの出版社の大多数が2017年を境にAIツールに本格的に投資し始めたといいます。

 

AIの活用法で、最も一般的なのはコンテンツの分類です。コンテンツにタグ付けをして分類することで、人々が欲しいメディアを容易に見つけられるようにします。もしオンラインで書籍を購入した後に似たような本を勧められたという経験をお持ちでしたら、それはAIの働きを体験したということです。インターネットによって、かつてない数のコンテンツが溢れかえる今、このようなレコメンド機能はますます重要なものとなっています。また、AIが消費者の読書傾向を把握し、企業側に対してコンテンツの獲得や市場予測の支援することもできます。さらに、AIは盗用・剽窃のチェックを行ったり、SNS投稿用に記事の要約や抜粋を作成するためにも利用されています。

 

情報収集や執筆のためのAIツール

情報収集はあらゆる種類のライティングにおいて重要で、研究者の情報収集のためのAIツールの開発にも力が注がれてきました。Google Scholarのようなツールは、関連する研究を探し出し、引用などを辿るのに役立ちます。EndNote、EverNote、Mendeleyなど、ノート、参考文献、書誌の整理をサポートするツールはますます増えています。オールインワンのAuthorONEは、研究者に単一のプラットフォームで様々なツールを提供し、研究の要約、投稿先ジャーナルの選択、盗用・剽窃のチェックなどの機能を備えています。こうしたAIツールは、研究に必要であるけれど退屈な反復作業の、自動化または緩和に役立ちます。 投稿前にそのジャーナルの要件に合うように原稿をフォーマットする際も、AIを活用できます。

 

また、ライターや論文著者の文章の質を向上させるためのAIライティングツールも数多く存在します。明確で簡潔な文章は、特に学術関係の書き手にとって不可欠です。プロの校正者や出版支援サービスを利用することも推奨されますが、Trinkaなど、学者や研究者のために設計されオーダーメイドの学術校正をしてくれる専門AIツールの人気も高まっています。Trinkaは、学術論文・テクニカルライティングに特化したAI英文チェッカーで、専門性の高い文章を書く人にとっては貴重なAIアシスタントです。このようなツールは、編集者が利用しても作業負荷の軽減やワークフローの高速化、仕事の質の向上を実現してくれます。書き手自身がこうしたツールを使って自分で校正をしておけば、ワークフローはさらに円滑になるでしょう。

 

学術出版業界でのAIの活用

出版業界の中でも学術出版社は特にAIの活用に積極的です。Trinkaのような研究者の論文執筆やテクニカルライティングの校正に特化したツールの他に、学術出版社におけるその他のタスクのためのAIツールも増えてきています。 これには著作権のチェックや、査読者の選定、関連研究の検索など、既に幅広いツールが存在します。AIにより、偏りのない査読者を選び出し、多様な著者の研究を出版することも可能になるのです。

 

出版におけるAIの未来

出版業界のさまざまな場面でのAIツールの存在感は年々増していますが、ロボットに仕事をかわってもらって人間は横になっていられるようになるには、まだまだ時間がかかりそうです。AIツールでは、学習するデータのインプット次第では、結果に限りがあります。査読者を選定するAIツールは、公平である可能性がある一方で、学習した選定基準によっては既存のバイアスを再現してしまう可能性もあるのです。また、AIには、語調や文脈など、人間のコミュニケーションを独特なものにしていることばの細やかなニュアンスのすべてを見分けることはできません。AIの翻訳ツールや校正ツールは進化を続けていますが、それでも滑稽なミスは珍しくありません。出版業界に、AIの居場所があることは確かです。しかしその場所は人間が今いる場所ではなく、人間の傍らである可能性が高いようです。

従業員採用におけるAIの役割

業務に適した能力を持つ人材を採用することは、いつの時代も難しいことです。インターネットの登場で、多くの求職者がこれまで以上に簡単に求人情報を目にして応募できるようになったため、企業側の採用活動は一面では簡単になり、同時に別の側面では困難になっています。候補者の幅が広がることは素晴らしいのですが、それに伴って人事部門の業務も過剰になります。そこで活躍するのが人工知能、AIです。AIは企業の大小を問わず、求職者を選別し、職務に最適な候補者を見つける上で役立ちます。しかし他のツールと同様、採用におけるAIの活用には欠点もあります。AIは、求人に対する応募や採用をどのように変えているのでしょうか。

 

採用の現場でのAIの活用

テクノロジーとインターネットの普及は、多くの企業の採用活動を刷新しましたが、AIの導入もその延長線上にあります。1990年代、多くの企業がオンラインでの存在感を示し、ウェブ採用を行うようになりました。そして募集や選考から候補者育成まで、採用プロセスのあらゆるステップがオンラインで行われるようになりました。この流れに新たな一石を投じるのがAIです。2018年のLinkedInのレポートは、AIが採用プロセスを再構築する最大の要因の1つであると強調しています。

 

これは、現在の採用プロセスにAIがどのように組み込まれているかを見れば納得がいきます。AIツールは、候補者が履歴書を掲載する求人サイトから情報を抽出(スクレイピング)して優秀な潜在候補者を特定し、場合によっては直接応募するように勧誘します。企業が求める人材とプロフィールの合致する候補者とつながるために、チャットボットが使われることも少なくありません。AIは候補者選考のプロセスにも活用され、履歴書のキーワードを自動的に認識し、採用担当者が短い時間で候補者を選別できるようにします。より専門的な知識を必要とする職種では、スキルの採点と評価にもAIが活用されます。またAIはビデオ面接の評価にも活用されています。顔認識と表情分析で、AIが候補者をランク付けし、その性格特性を評価するのです。採用プロセスのこれらのステップでAIを活用することで、企業とその採用担当者は、自動化による時間とコストの大幅な削減の恩恵を受けられるのです。

 

AIを使った採用の落とし穴

採用プロセスにおけるAI活用を推進する人々は、そのメリットを強調します。例えば、担当者が大量の履歴書や応募書類をさばく上での効率性などです。数回のクリックで誰でも応募できるため、多くの採用担当者が膨大な候補者からの履歴書に圧倒されているのが現状ですが、AIを導入すればキーワード分析やその他の高度な解析手法で、適格な候補者とそうでない候補者を分類し、大多数の応募者をふるいにかけられるようになります。

 

AI推進派は、AIが採用プロセスから人間のバイアスを取り除き、候補者の多様性を高めると主張します。しかし、これには反対意見も少なくありません。AIのアルゴリズム自体、参照するデータに依拠するため、データに偏りがあれば、その判断もおのずとバイアスの掛かったものになるという意見です。実際、採用プロセスにおけるバイアスを増加させるか、少なくともバイアスを引き継いでしまっているアルゴリズムも報告されています。一例は、Amazonがテストしたツールで、このAIは男性の候補者を優遇するように偏っていました。AIに過去10年の間に同社に提出された履歴書から学習させたのですが、履歴書のほとんどが男性のものだったためです。他の採用ツールでも、同様の問題が疑われたり確認されたりしたものがあります。また、表情を分析するビデオ面接分析ツールに関しては、特定の種類の障害を持つ人に対してバイアスがあると非難されています。さらに、AIに捉えられやすいキーワードを使用していない人材や、AIが想定する様式で履歴書をフォーマットしていない人材は、優秀であっても最初の段階でふるい落とされることがあります。

 

AIによる応募の拡大

採用プロセスにおけるAIの役割は選考の補助にとどまりません。採用する企業側が求職者を惹きつけるため、そして求職者側が応募書類や履歴書を作成するためにもAIが利用されるようになっています。文法やスペルのチェックなど、さまざまな機能を持つAIライティングツールは、採用担当者と求職者の双方にとって便利です。採用担当者側では、求人広告の文章を自動添削する などのツールが、多様な背景を持つ候補者にアピールできる求人広告の作成する際に使われています。業界用語や専門用語が多すぎる求人広告は、そうでない広告に比べて応募者を集めるのに苦労するという調査結果もあり、そうしたデータも踏まえたより適切な文面を作成できるのです。

 

応募者側でのAIツールの活用

応募者の側でも、AIツールを活用することで明確で簡潔、かつ間違いのない履歴書を作成することができます。例えばTrinkaは、シンプルなインターフェイスのブラウザツールで、英文の修正案を提示してくれるため、英語で応募する人にとっては強い味方です。リアルタイムで文法をチェックし、学術的、技術的な用語のミスの修正や、より適切な言葉づかいの提案も瞬時に行なってくれます。企業側の応募者選考システムにアピールするような履歴書をフォーマットして作成するReziのようなツールもあります。履歴書に特定のキーワードを盛り込み、AIにアピールできるようにするのです。Skillroadsも同様のサービスで、質問に回答することで、自然言語処理によって履歴書を作成してくれます。

 

採用する企業側のAI活用が進む中、求職者側もツールを駆使しない手はありません。求職者がAI時代の採用に適応するためのツールや資料も増えてきています。上に挙げたようなツールを使い、採用担当者が提案するヒントも参考にすることで、多くの応募者の中で自分を際立たせることができるでしょう。採用担当者も、増加するツールを使いこなすことで、自社の業務に最適な人材をより効果的に選び出すことができるようになるでしょう。採用現場でのAI活用にはまだまだ課題があります。100%人の手で採用を決めていた時代と同じく、いまだバイアスは存在するものの、これからも採用現場ではAIが使われていくことは間違いなさそうです。

人工知能の限界:人間の方が得意なこと

人工知能は、もはやSF映画の中だけのものではありません。過去数十年の間に、人工知能(AI)は私たちの日常に深く入り込んできました。ニュースでは、医療から製造業に至るまで、さまざまな分野で仕事の自動化が進んでいると伝えられます。求人広告の掲載、顔の表情の分析、市場動向の予測、トイレットペーパーの自動追加注文など、AIにできることは多岐に渡ります。ライティングや翻訳、校正など、人の手による作業が必要とされている分野でも、煩雑な作業を効率化するためにAIが導入されています。このようにAIが日常生活に浸透しているため、「AIはすでに人間の能力を超えているのではないか」と考える人もいるようです。人間がAIよりも優れている領域はまだあるのでしょうか。そして、あらゆる分野でAIが人間の能力を超えるのは時間の問題なのでしょうか。AIが成長を遂げている分野、その限界、そして今後何が予想されるのかを見ていきましょう。

 

AIは本当に日常に浸透しているのか

人工知能というと、しゃべるロボットがサービスを提供したり、複雑な計算をしたりするイメージがあるかもしれません。しかしAIはもっと一般的なものです。多くの場合、AIは単なるコンピュータのアルゴリズムです。AIと非AIアルゴリズムの違いは、非AIアルゴリズムは予めプログラムに書かれたタスクしか実行できないのに対し、AIは「学習」できるようにプログラムされている点です。AIは、人間の知性、思考、パターンを模倣するように動作します。AIの「人間らしさ」を測る方法として、発明者であるアラン・チューリングにちなんでチューリング・テストと呼ばれる有名なテストがあります。チューリング・テストは、参加者が対話の中でAIと人間の違いを見分けることができるかで判定をするものです。

 

日常生活の中でAIに遭遇した経験がある人、あるいは毎日AIを利用する人が少なくないでしょう。SiriやBixbyのようなスマートフォンのデジタルアシスタントや、AmazonのAlexaもAIです。多くのウェブサイト上にある、基本的な質問に答えるチャットボットのアシスタントもAIで動いています。最近ではTrinkaなど、文章の質を高めてくれるオンライン・ライティング・ツールも人気です。自然言語処理はAIが言語のデータセットを使ってパターンを学習し、人間のコミュニケーションの仕方を理解する分野で、そうしたツールの基礎となっているものです。ディープラーニングニューラルネットワーク、コグニティブコンピューティングも、AIが情報を学習・処理する方法です。

 

AIの長所と短所

AIは素晴らしいツールになり得ますが、もちろん欠点もあります。AIは人為的ミスをなくす、もしくは減らすのに役立ちます。AIがうまくプログラムされているアルゴリズムはミスのない仕事につながります。さらに、人間と違って、AIは休む必要がありません。24時間365日稼働して学習し、人間の時間、労力、お金の節約に役立ちます。AIは、人間がミスを犯しがちなデータ処理など、煩雑な作業に向いていますが、それ以外の領域においてもすでに驚くべきイノベーションを起こしています。マサチューセッツ工科大学(MIT)は、従来の検出方法よりも最大で5年前に乳がんを予測できるディープラーニングAIモデルを発明しました。この他にも医療分野では創薬と開発の両面でAIが活用されています。

 

AIには、バイアスなしに意思決定ができるというメリットがあるという意見もあります。例えば、多くの企業では、AIには人間と同じようなバイアスがかからないという前提で、採用応募者の履歴書のスクリーニングにAIを使っています。プログラムされた選別であるため、一見客観的に見えるAIですが、選別方法をプログラムするのは人間です。そしてAIプログラムは参照するデータセットを元に学習を行います。このため、AIに偏見・バイアスがないというのは、そのプログラムと学習に使用したデータセットに偏向がないという条件を満たした場合にのみ言えることなのです。AIにバイアスがかかりうる危険は、企業の採用活動に限った話ではありません。失敗したAIの有名な例としては、Twitterで対話・学習するAIチャットボット、Tayがあります。Tayは公開後、24時間足らずで人種差別的、性差別的、卑猥なコメントをつぶやくようになりました。これは、Twitterがそのようなコメントで溢れかえっていて、Twitterユーザーもそうした言葉をTayに返したことで、ネガティブな言葉の学習が強化されてしまったためです。

 

人間がAIに優るもの

AIが多用されるようになった分野では、人間はすぐに追い抜かれるように見えるかもしれません。しかし、人間がAIよりも優れた能力を示す複雑なタスクはまだ数多く存在します。創造性を必要とするタスクは、現状ではまだAIプログラムには行えません。ある作家が、AIにテレビ番組「フレンズ」の新しいエピソードの脚本を書かせてみましたが、出来上がった脚本は全く読めたものじゃない代物でした。小説や詩のインスピレーションを得るためにAIライティングツールを利用する書き手もいますが、AIがすべての作業を代行してくれるわけではありません。また、自然言語処理は飛躍的に進歩したとはいえ、AIが読み取った言葉をすべて本当に理解できている訳ではありません。言葉によるコミュニケーションは予測しやすい部分があるため、特定の状況下や文脈においてAIは信頼性の高い対話を行うことができます。しかし、予期せぬ言葉遣いや皮肉、ニュアンスには、対応できないこともあるのです。また、現在のAIは共感や批判的思考を行うことはまだできません。こうしたスキルが必要なタスクについては、人間が優位に立っています。

 

AIは急速に発展し、私たちの生活に欠かせない存在になりました。しかし、AIがすべてを代行し、私たちが毎日寝てして過ごしたり、趣味に没頭できるようになる日は、まだまだ先のことでしょう。AIは、問題解決やニュアンスの理解だけでなく、言語処理や創造性の分野でもまだまだ改善が必要です。ロボットに仕事を奪われるのが心配な人は、これから先も活躍するために、クリエイティブなスキルを磨くことが得策のようです。

チャットボットの進化

ロボットと話をするという発想は馬鹿げていて、SF小説の世界のように思えるかもしれませんが、じつのところ、おそらくみなさんはすでにロボットとの会話に時間を費やしています。人工知能(AI)の進化と実用化により、わたしたちはそれを取り入れた様々なテクノロジーを日常的に利用しており、広義のロボットはあらゆるところに存在しています。「チャットボット」も、その一例です。チャットボットとは、"チャット"と "ロボット"を組み合わせた言葉で、人間と会話をするために設計されたある種のロボットです。チャットボットはいまや、わたしたちの身の回り、どこにでもにあります。大企業のカスタマーサービスにオンラインで問い合わせたことがある人は、おそらくチャットボットと会話しているのではないでしょうか。しかし、チャットボットは当初から現在ほど洗練されていたわけではありません。1950年代に最初のチャットボットが発明されて以来、時とともに大きく進歩してきたのです。この記事では、チャットボットの進化と、現在わたしたちが折々に接するチャットボットの特徴について見ていきます。

 

チャットボットとは?

チャットボットとは、簡単に言えば、会話形式で人間に応答できるプログラムや機械のことです。ロボットの形をしたものもありますが、多くはソフトウェア・プログラムで、ウェブサイトやその他のインターフェース上でコンピューターを介して人と対話するようになっています。チャットボットには、テキストベースのものと音声ベースのものがあります。

チャットボットを会話型AIと混同すべきではありませんが、この2つには密接な関係があります。会話型AIは、自然言語処理NLP)により人の発話内容を記憶し、幅広いインプットへの応答を学習します。NLPは、いわばチャットボットを動かす根幹技術のひとつなのです。ただし、すべてのチャットボットが会話型AIを導入しているわけではありません。 チャットボットのなかには、ルールベースやフローベースのプログラムになっているものもあり、限定的な範囲のインプットにのみ対応し、決まった返答しかできないものもあります。

 

チャットボットの歴史:草創期から

 

チャットボットというと、多くの人がインスタントメッセージやコンピューターを連想するため、ごく最近の発明と思われがちです。しかし、じつはそれよりずっと以前から存在しました。世界初のチャットボットは、1966年にマサチューセッツ工科大学(MIT)のジョセフ・ワイゼンバウム博士が制作した「 」という名前のものです。ELIZAは、パターンマッチングと特定の語句への置換という方法で人がテキスト入力した質問に対する回答を導き出しました。ELIZAのスクリプトはある心理療法士を模しており、対象者が秘密や秘めた感情をプログラムに打ち明けるのを見て、博士はすぐにチャットボットの力を理解しました。

 

プログラマーたちは、ワイゼンバウムのELIZAをもとに、その後数十年にわたり、より高度な機能を持つチャットボットを開発していきました。チャットボットは自動電話システムの基礎となり、広く一般に知られるようになりました。チャットボット開発における次の大きなブレークスルーは、1995 年制作の「ALICE」です。ALICEは自然言語処理が可能で、人間のリアルな会話を模倣することができました。しかし、真に革命的だったのはALICEがオープンソース化されたことです。ほかのプログラマーもALICEを使って独自のチャットボットを作ることが可能となり、チャットボットの世界が急速に進歩を遂げていったのです。2001年に登場した「Smarterchild」は、MSNとAOLのチャットプログラムで利用可能でした。Smarterchildを、現在人気の高いAppleのAIチャットボット「Siri」の先駆けと捉える人は多いでしょう。Smarterchildは、軽妙な会話やデータサービスへの素速いアクセスを実現し、チャットボットの担える範囲を広げていきました。

 

チャットボットの歴史:現在

 

AIの導入とチャットボットのオープンソース開発により、迅速な改良と普及が進みました。チャットボットは現在、世界中の企業でパーソナルアシスタントや顧客サービスアシスタントとして日常的に利用されています。AppleのSiri、サムスンのBixby、MicrosoftのCortana、GoogleGoogleアシスタントAmazonのAlexaはすべて、パーソナルアシスタントとして扱われるチャットボットです。音声コマンドに反応し、メールやカレンダー、ホームセキュリティシステムなどを制御することができます。しかし、こうしたチャットボットはどれも完璧なわけではありません。Siriは、異なったアクセントへの対応が苦手で、動作させるにはインターネット接続が必要です。AlexaとGoogleアシスタントにおいては、ともにプライバシーに関する懸念が生まれています。Cortanaにはマルウェアへの脆弱性が指摘されました。しかし、こうした欠点はあるものの、チャットボットは、今日のわたしたちの生活にとって欠かせない存在になっています。

 

チャットボットはビジネスや教育の世界にも進出しています。2016年頃から、AI技術の発展により、カスタマーサービス用のチャットボットがビジネスプラットフォームで広く採用されるようになりました。また、ブランドやサービスに特化したソーシャルメディアプラットフォーム上のチャットボットも開発されるようになりました。現在では、多くのサイトでボットを利用して顧客からの一般的な質問に答えたり、単純な問題を解決したりするチャット機能が提供されています。

チャットボットにできることはそれだけではありません。特に新型コロナウイルスの大流行により、世界中の多くの学生が自宅から勉強するようになったことで、チャットボットは教育現場でも頻繁に使用されるようになりました。学校によっては、保護者の質問に答えたり、スケジュールやカリキュラムなどの情報を共有したりするため、企業のカスタマーサービスのようにチャットボットを活用し始めているところもあるようです。教育現場におけるチャットボットの存在感は増していますが、教育行政の担当者たちは、ロボットに仕事を奪われる心配はないと主張します。すでに教育に携わる人材が不足していたため、普及が進んできているというのです。

 

チャットボットの未来

AIの開発が進むにつれて、チャットボットの性能も向上していくことが予想されます。近い将来、オンラインで話している相手がボットなのか、それとも本物の人間なのか、区別できなくなるかもしれません。自然言語処理とAIによって、当初の形態から大きく進化したチャットボットが、急速にわたしたちの日常生活の一部になりつつあります。チャットボットの時代が到来しているのです。