AIが出版業界にもたらす恩恵とは?

テクノロジーの発展はビジネスのあらゆる分野に影響をもたらしますが、出版業界も例外ではありません。テクノロジーによって人々の働き方や仕事への取り組み方が変わる中、出版業やその他のマスメディアも急速な変貌を遂げつつあります。スマートデバイスが普及し、日常生活の多くのことがオンラインで行われるようになりました。紙媒体のジャーナリズムは、オンライン・ジャーナリズムに取って代わられ、かつてほど利用されなくなってきています。電子書籍リーダーとインターネットへの接続があれば、世界中のどこからでも図書館一つ分の蔵書全てにアクセスできるような環境の変化がコンテンツ制作やマーケティングのトレンドにも影響を与えています。こうした流れの中にAIも入り込んできています。AIは出版業界にどのような変化をもたらしたのでしょうか。そしてその変化の先には何があるのでしょうか。

 

出版社によるAIの活用

「AI」と「出版」という二つの単語が並べて書かれていると、ロボットが本を執筆する様子を想像する人も多いのではないでしょうか。出版におけるAIの存在は、他の分野と同様に、業界関係者の間で賛否両論を巻き起こしています。自分たちの仕事の将来を危惧する人がいる一方で、AIが自分たちの仕事を楽にする可能性を受け入れる人もいるのです。では、実際に出版社ではAIはどのように活用されているのでしょうか?

 

出版におけるAIの役割を理解するには、出版のプロセスを理解することが重要です。書籍の出版とは、単に、「書いて」、「編集して」、「出す」、というような単純なものではありません。著者や編集者に加え、マーケティング担当者、市場・データアナリスト、リサーチャー、ファクトチェッカー、営業担当者、知的財産権弁護士など、出版には幅広い人材が関わります。AIは、これらすべての業務において、効率化に役立っています。出版業界におけるAIの導入は急速かつ広範囲に及んでいます。英国出版協会(Publishers Association)によると、イギリスの出版社の大多数が2017年を境にAIツールに本格的に投資し始めたといいます。

 

AIの活用法で、最も一般的なのはコンテンツの分類です。コンテンツにタグ付けをして分類することで、人々が欲しいメディアを容易に見つけられるようにします。もしオンラインで書籍を購入した後に似たような本を勧められたという経験をお持ちでしたら、それはAIの働きを体験したということです。インターネットによって、かつてない数のコンテンツが溢れかえる今、このようなレコメンド機能はますます重要なものとなっています。また、AIが消費者の読書傾向を把握し、企業側に対してコンテンツの獲得や市場予測の支援することもできます。さらに、AIは盗用・剽窃のチェックを行ったり、SNS投稿用に記事の要約や抜粋を作成するためにも利用されています。

 

情報収集や執筆のためのAIツール

情報収集はあらゆる種類のライティングにおいて重要で、研究者の情報収集のためのAIツールの開発にも力が注がれてきました。Google Scholarのようなツールは、関連する研究を探し出し、引用などを辿るのに役立ちます。EndNote、EverNote、Mendeleyなど、ノート、参考文献、書誌の整理をサポートするツールはますます増えています。オールインワンのAuthorONEは、研究者に単一のプラットフォームで様々なツールを提供し、研究の要約、投稿先ジャーナルの選択、盗用・剽窃のチェックなどの機能を備えています。こうしたAIツールは、研究に必要であるけれど退屈な反復作業の、自動化または緩和に役立ちます。 投稿前にそのジャーナルの要件に合うように原稿をフォーマットする際も、AIを活用できます。

 

また、ライターや論文著者の文章の質を向上させるためのAIライティングツールも数多く存在します。明確で簡潔な文章は、特に学術関係の書き手にとって不可欠です。プロの校正者や出版支援サービスを利用することも推奨されますが、Trinkaなど、学者や研究者のために設計されオーダーメイドの学術校正をしてくれる専門AIツールの人気も高まっています。Trinkaは、学術論文・テクニカルライティングに特化したAI英文チェッカーで、専門性の高い文章を書く人にとっては貴重なAIアシスタントです。このようなツールは、編集者が利用しても作業負荷の軽減やワークフローの高速化、仕事の質の向上を実現してくれます。書き手自身がこうしたツールを使って自分で校正をしておけば、ワークフローはさらに円滑になるでしょう。

 

学術出版業界でのAIの活用

出版業界の中でも学術出版社は特にAIの活用に積極的です。Trinkaのような研究者の論文執筆やテクニカルライティングの校正に特化したツールの他に、学術出版社におけるその他のタスクのためのAIツールも増えてきています。 これには著作権のチェックや、査読者の選定、関連研究の検索など、既に幅広いツールが存在します。AIにより、偏りのない査読者を選び出し、多様な著者の研究を出版することも可能になるのです。

 

出版におけるAIの未来

出版業界のさまざまな場面でのAIツールの存在感は年々増していますが、ロボットに仕事をかわってもらって人間は横になっていられるようになるには、まだまだ時間がかかりそうです。AIツールでは、学習するデータのインプット次第では、結果に限りがあります。査読者を選定するAIツールは、公平である可能性がある一方で、学習した選定基準によっては既存のバイアスを再現してしまう可能性もあるのです。また、AIには、語調や文脈など、人間のコミュニケーションを独特なものにしていることばの細やかなニュアンスのすべてを見分けることはできません。AIの翻訳ツールや校正ツールは進化を続けていますが、それでも滑稽なミスは珍しくありません。出版業界に、AIの居場所があることは確かです。しかしその場所は人間が今いる場所ではなく、人間の傍らである可能性が高いようです。