人工知能の限界:人間の方が得意なこと

人工知能は、もはやSF映画の中だけのものではありません。過去数十年の間に、人工知能(AI)は私たちの日常に深く入り込んできました。ニュースでは、医療から製造業に至るまで、さまざまな分野で仕事の自動化が進んでいると伝えられます。求人広告の掲載、顔の表情の分析、市場動向の予測、トイレットペーパーの自動追加注文など、AIにできることは多岐に渡ります。ライティングや翻訳、校正など、人の手による作業が必要とされている分野でも、煩雑な作業を効率化するためにAIが導入されています。このようにAIが日常生活に浸透しているため、「AIはすでに人間の能力を超えているのではないか」と考える人もいるようです。人間がAIよりも優れている領域はまだあるのでしょうか。そして、あらゆる分野でAIが人間の能力を超えるのは時間の問題なのでしょうか。AIが成長を遂げている分野、その限界、そして今後何が予想されるのかを見ていきましょう。

 

AIは本当に日常に浸透しているのか

人工知能というと、しゃべるロボットがサービスを提供したり、複雑な計算をしたりするイメージがあるかもしれません。しかしAIはもっと一般的なものです。多くの場合、AIは単なるコンピュータのアルゴリズムです。AIと非AIアルゴリズムの違いは、非AIアルゴリズムは予めプログラムに書かれたタスクしか実行できないのに対し、AIは「学習」できるようにプログラムされている点です。AIは、人間の知性、思考、パターンを模倣するように動作します。AIの「人間らしさ」を測る方法として、発明者であるアラン・チューリングにちなんでチューリング・テストと呼ばれる有名なテストがあります。チューリング・テストは、参加者が対話の中でAIと人間の違いを見分けることができるかで判定をするものです。

 

日常生活の中でAIに遭遇した経験がある人、あるいは毎日AIを利用する人が少なくないでしょう。SiriやBixbyのようなスマートフォンのデジタルアシスタントや、AmazonのAlexaもAIです。多くのウェブサイト上にある、基本的な質問に答えるチャットボットのアシスタントもAIで動いています。最近ではTrinkaなど、文章の質を高めてくれるオンライン・ライティング・ツールも人気です。自然言語処理はAIが言語のデータセットを使ってパターンを学習し、人間のコミュニケーションの仕方を理解する分野で、そうしたツールの基礎となっているものです。ディープラーニングニューラルネットワーク、コグニティブコンピューティングも、AIが情報を学習・処理する方法です。

 

AIの長所と短所

AIは素晴らしいツールになり得ますが、もちろん欠点もあります。AIは人為的ミスをなくす、もしくは減らすのに役立ちます。AIがうまくプログラムされているアルゴリズムはミスのない仕事につながります。さらに、人間と違って、AIは休む必要がありません。24時間365日稼働して学習し、人間の時間、労力、お金の節約に役立ちます。AIは、人間がミスを犯しがちなデータ処理など、煩雑な作業に向いていますが、それ以外の領域においてもすでに驚くべきイノベーションを起こしています。マサチューセッツ工科大学(MIT)は、従来の検出方法よりも最大で5年前に乳がんを予測できるディープラーニングAIモデルを発明しました。この他にも医療分野では創薬と開発の両面でAIが活用されています。

 

AIには、バイアスなしに意思決定ができるというメリットがあるという意見もあります。例えば、多くの企業では、AIには人間と同じようなバイアスがかからないという前提で、採用応募者の履歴書のスクリーニングにAIを使っています。プログラムされた選別であるため、一見客観的に見えるAIですが、選別方法をプログラムするのは人間です。そしてAIプログラムは参照するデータセットを元に学習を行います。このため、AIに偏見・バイアスがないというのは、そのプログラムと学習に使用したデータセットに偏向がないという条件を満たした場合にのみ言えることなのです。AIにバイアスがかかりうる危険は、企業の採用活動に限った話ではありません。失敗したAIの有名な例としては、Twitterで対話・学習するAIチャットボット、Tayがあります。Tayは公開後、24時間足らずで人種差別的、性差別的、卑猥なコメントをつぶやくようになりました。これは、Twitterがそのようなコメントで溢れかえっていて、Twitterユーザーもそうした言葉をTayに返したことで、ネガティブな言葉の学習が強化されてしまったためです。

 

人間がAIに優るもの

AIが多用されるようになった分野では、人間はすぐに追い抜かれるように見えるかもしれません。しかし、人間がAIよりも優れた能力を示す複雑なタスクはまだ数多く存在します。創造性を必要とするタスクは、現状ではまだAIプログラムには行えません。ある作家が、AIにテレビ番組「フレンズ」の新しいエピソードの脚本を書かせてみましたが、出来上がった脚本は全く読めたものじゃない代物でした。小説や詩のインスピレーションを得るためにAIライティングツールを利用する書き手もいますが、AIがすべての作業を代行してくれるわけではありません。また、自然言語処理は飛躍的に進歩したとはいえ、AIが読み取った言葉をすべて本当に理解できている訳ではありません。言葉によるコミュニケーションは予測しやすい部分があるため、特定の状況下や文脈においてAIは信頼性の高い対話を行うことができます。しかし、予期せぬ言葉遣いや皮肉、ニュアンスには、対応できないこともあるのです。また、現在のAIは共感や批判的思考を行うことはまだできません。こうしたスキルが必要なタスクについては、人間が優位に立っています。

 

AIは急速に発展し、私たちの生活に欠かせない存在になりました。しかし、AIがすべてを代行し、私たちが毎日寝てして過ごしたり、趣味に没頭できるようになる日は、まだまだ先のことでしょう。AIは、問題解決やニュアンスの理解だけでなく、言語処理や創造性の分野でもまだまだ改善が必要です。ロボットに仕事を奪われるのが心配な人は、これから先も活躍するために、クリエイティブなスキルを磨くことが得策のようです。